ワイヤーハーネスの性能、信頼性、寿命は、使用される材料の品質と適切な選定に大きく依存しています。導体材料、絶縁材料、保護材料のそれぞれが、電気的性能、機械的強度、耐環境性に直接影響を与えます。
本ガイドでは、ワイヤーハーネスに使用される主要な材料の特性と選定基準を詳しく解説し、用途に最適な材料を選定するための実践的な知識を提供します。
1. 導体材料
銅は最も広く使用される導体材料で、優れた導電率(IACS 100%)、加工性、はんだ付け性を持ちます。裸銅(軟銅線)は導電率が最も高いですが、耐食性向上のために錫メッキ(最も一般的)、ニッケルメッキ(高温用途)、銀メッキ(高周波用途)が施されます。
アルミニウムは、銅の63%の導電率ですが、重量が約1/3であり、自動車やEVの軽量化用途で採用が増えています。銅クラッドアルミ(CCA)は、銅の表面特性とアルミの軽量性を兼ね備えたハイブリッド材料です。高温用途ではニッケル線やニクロム線が使用されます。
導電率要件に基づく導体材料を選定する
使用環境に適した表面処理を選ぶ
軽量化要件がある場合はアルミニウムを検討する
2. 絶縁材料
PVC(ポリ塩化ビニル)は最も一般的な絶縁材で、低コスト、良好な電気特性、柔軟性を持ちます。温度範囲は-10~+80°Cで、一般産業用途に広く使用されます。ただし、ハロゲンを含むため、燃焼時に有毒ガスを発生します。
高性能絶縁材には、PTFE(-65~+260°C、耐薬品性に優れる)、シリコーン(-55~+200°C、柔軟性に優れる)、XLPE(-40~+90°C、耐熱・耐水性)、FEP(-65~+200°C、低摩擦)があります。ハロゲンフリー要件にはポリオレフィン系材料が使用されます。
使用温度範囲に適した絶縁材を選定する
ハロゲンフリー要件の有無を確認する
耐薬品性・耐油性の必要性を評価する
3. シース・ジャケット材料
シース(外被)は、ケーブルの最外層の保護層であり、機械的保護、耐候性、難燃性を提供します。PVCシースは低コストで汎用性が高く、PURシースは耐摩耗性と耐油性に優れ、TPEシースは柔軟性と耐候性を兼ね備えています。
特殊用途では、ネオプレン(耐油・耐薬品性)、ハイパロン(耐候・耐UV性)、フッ素ゴム(耐熱・耐薬品性)が使用されます。鉄道車両や船舶では、低煙無毒性(LSZH:Low Smoke Zero Halogen)材料の使用が規定されています。
機械的保護レベルの要件を設定する
難燃性等級(UL 94 V-0等)を確認する
LSZH要件の有無を確認する
4. 保護材料
コルゲートチューブ(波付チューブ)は、配線の機械的保護に最も広く使用される保護材です。ナイロン製(PA6/PA12)は耐摩耗性と耐油性に優れ、PP製は軽量・低コストです。スリット付きタイプは後付け作業が容易です。
その他の保護材として、スパイラルチューブ(柔軟性重視)、編組スリーブ(PETまたはナイロン、柔軟性と保護の両立)、収縮チューブ(防水・絶縁・束線)、テーピング(ビニールテープ、布粘着テープ、自己融着テープ)があります。用途と取付方法に応じて選定します。
保護レベルに応じた保護材を選定する
後付け作業の必要性を考慮する
保護材の温度定格を確認する
5. シールド材料
EMI/RFIシールドには、編組シールド(銅、錫メッキ銅、アルミ)、フォイルシールド(アルミ/ポリエステル)、スパイラルシールド(銅テープ巻き)が使用されます。編組シールドはカバレッジ率65-98%で、低周波から中周波のシールドに効果的です。
フォイルシールドは100%カバレッジを提供し、高周波シールドに優れますが、屈曲耐久性は編組より劣ります。コンビネーションシールド(フォイル+編組)は、広帯域にわたって優れたシールド効果を提供し、高性能用途に使用されます。
シールドの周波数範囲要件を確認する
カバレッジ率の目標を設定する
屈曲耐久性の要件を考慮する
6. 接着・シール材料
ホットメルト接着剤は、収縮チューブの接着層、コネクタのシーリング、ケーブルの固定に使用されます。ポリアミド系ホットメルトは電気部品に、EVA系は汎用用途に適しています。硬化後も一定の柔軟性を保持することが重要です。
シリコーンシーラント、エポキシポッティング材、ウレタンポッティング材は、防水・防振・絶縁の目的で使用されます。エポキシは硬質で高い機械的強度を持ち、シリコーンは柔軟性と広温度範囲に優れ、ウレタンはバランスの取れた特性を持ちます。
接着・シールの目的を明確にする
使用温度範囲に適した材料を選定する
硬化後の柔軟性・硬度要件を確認する
7. 用途別材料選定ガイド
自動車用途:導体は錫メッキ銅、絶縁材はXLPE/架橋ポリオレフィン、シースはPVC/TPE、保護材はナイロンコルゲートチューブ。JASO D 611(日本自動車用薄肉電線)に準拠する材料を選定します。
医療用途:導体は銀メッキ銅(高周波)または錫メッキ銅、絶縁材はPTFE/FEP/シリコーン、シースは医療グレードTPE。ISO 10993バイオ適合性認証済みの材料を使用します。産業ロボット用途:導体はクラス6極細撚り線、絶縁材はTPE/PUR、シースは高耐摩耗PUR。屈曲寿命1000万回以上対応の材料を選定します。
用途の主要要件を整理する
業界規格に準拠した材料を選定する
材料メーカーの推奨品を参考にする
8. 環境規制と適合
RoHS指令(2011/65/EU)は、鉛、水銀、カドミウム、六価クロム、PBB、PBDEの使用を制限しています。REACH規則(EC 1907/2006)は、高懸念物質(SVHC)のリストを定期的に更新しており、サプライチェーン全体での対応が必要です。
日本では、JIS C 0950(J-Moss)が電気製品の特定化学物質の含有情報表示を義務付けています。ハロゲンフリー要件はIEC 61249-2-21に基づき、塩素0.09%以下、臭素0.09%以下、塩素+臭素合計0.15%以下と定義されています。
RoHS/REACH適合を材料調達で確認する
ハロゲンフリー要件の有無を確認する
材料証明書でSVHCの非含有を確認する
